知らない人たち。知っている人たち。どちらの前で話すのが緊張するか。
それは人それぞれだろう。でも、私は・・・・・・いや、きっと多くの人が1番緊張するのは、自分の好きな人の前、だと思う。
好きな人に嫌われたくない。少しでも良く思われたい。そういう気持ちがどんどんプレッシャーを与えるんだ。
しかも、授業で先生に当てられる時は、心の準備が出来ていない場合が多い。だから、失敗しちゃう時もあって・・・・・・。その経験がまた自信を奪っていく。
でも、心の準備をする時間があっても、結局それはそれでダメ。時間があると、自分で完璧を求めてしまって、いつも以上にプレッシャーを感じてしまうから。
・・・・・・まさに、今が“それ”だった。
明日は班ごとに、自分たちが調べた職業について、クラスで発表することになっていた。は調べる段階、あるいは資料となるポスター作りの段階で頑張ってくれたから、と班のメンバーが私の発表する部分を短くしてくれた。だから、みんなより緊張しなくていいはず。練習だって何度も繰り返してきた。
それでも、不安が消えることは無い。むしろ、明日に近付けば近付くほど、私の緊張感は増していく・・・・・・。
そして、当日。その授業が始まった。
こんなことなら、白石くんと同じクラスじゃなければ良かったのに・・・・・・。なんてことを考えて、それはやっぱり嫌だと思い直す。だって、同じクラスなんだとわかった時、私はすごく嬉しかった。だから、今更別のクラスにはなりたくない。
それじゃあ、同じ班だったら良かったのに、と考える。同じ班なら発表する順番も一緒だから、私が発表しているところを見られなくて済む。・・・・・・でも、同じ班だったら、調べる時やポスター作りの時も、ずっと緊張しっぱなしだっただろう。
あ〜あ、こんなことを今更考えたって無駄なのに。それでも、私はこの現状から逃げ出したい気持ちでいっぱいになって。ぐるぐると、その無駄なことを考え続ける。
「それでは、次の班、発表を始めてください。」
ついに来た、私たちの番・・・・・・ではなく。次は白石くんたちの班の発表だ。
しっかり者の白石くんは、やっぱり発表も上手くて・・・・・・。思わず、見惚れてしまう。でも、だからこそ、私も失敗できないと考えながら、発表の終わった白石くんたちに拍手を送る。
「お疲れ様でした。席に戻ってください。」
発表者のみんなが自分たちの席へ帰る間、私たちは簡単な評価を書く。私は聞いているときから、わかりやすい発表で、とても良かったなどと思っていたから、すぐに書くことができた。
そして、そのとき、白石くんが席に戻り、後ろを振り返って小声で言った。
「どうやった、?俺らの発表は。」
何を隠そう、嬉しいことに、白石くんの席は私の前なのだ。だから、私は余計に意識しちゃうんだけど。さらに、班ごとに分けられた席だから、白石くんの後ろに居る私は、次が発表ということになる。
「すごく良かったよ!評価票にもそう書いておいた。」
「ホンマに?おーきに。次は、らの班やな。」
「うん・・・・・・。」
「緊張してるんか?」
「そりゃ、そうだよ・・・・・・。」
「たしかにな。そやけど、そんなに心配せんでも大丈夫や。まぁ、発表が終わったから言えるんやろうけど。そんなに緊張する必要無いで?発表してみたら、意外と楽やから。」
「ありがとう。」
そうは言いつつも、そんなことはないと思う。だって、私の緊張の原因は白石くん。その白石くんが見てくれている限り、私が楽になることなどない。
「それでは、次の班、お願いします。」
「いつも通りのでええからな?」
「わかった、頑張るね。」
笑顔のつもりだったけど、きっと引きつっていたんだろう。白石くんが少し苦笑いを返してくれた。
「――以上で、私たちの班の発表を終わります。ありがとうございました。」
・・・・・・・何とか、やり切った。特に大きな失敗は無かった。・・・・・・でも、やっぱり。もう少しゆっくり話した方が良かった、とか。あの部分はもっと強調した方が良かった、とか。いろいろと反省点が出てくる。
だから、私は少し下を向いたまま、席に戻った。どうせ、白石くんも評価とかを書いているから、見ていないだろうと思ったら。
「お疲れさん。」
「あ・・・、う、うん。ありがとう。」
席についた瞬間、前から声をかけられた。・・・・・・まさか、この微妙に暗い顔を見られたんじゃ?!と思うと、余計に恥ずかしくなってくる。
・・・・・・格好悪いところ、見られちゃった。
「良かったと思うで。」
「そ、そう?」
だけど、白石くんは相変わらず素敵な笑顔で、私を褒めてくれる。
「ああ、ホンマに良かったで。まぁ、ただ、ちょっと緊張しすぎやとは思ったけどな。もっと自然体でいったら、もっと良かったと思うわ。」
「やっぱり、前に立つと緊張しちゃうからね・・・・・・。」
「そんな必要無い、て言うたのに。今回もちゃんと発表できとってんから。自信持ってやったらええねんで?」
「・・・・・・ありがとう。」
白石くんにそう言ってもらえて、本当に嬉しいけど、かなり恥ずかしい。褒められること自体も照れるけど、ちゃんと見てくれていたんだなぁ、とか考えると、どんどん熱くなってくる。
そして、そこまで見てくれていたからこそ、やっぱり、もっとちゃんとできていれば・・・・・・とも考えてしまう。
「ほら、見てみ。評価票にも、ちゃんと書いたんやから。」
恥ずかしくて、少し俯き加減になっていた私の机に、白石くんは自分の評価票をそっと置いてくれた。
そこに書かれていた文は・・・・・・。
「・・・・・・?!」
「最後まで読んだか?」
何かに反応した私を見て、白石くんはそう聞いた。私はそれに返事をせず、驚いて顔を上げ、呆然と白石くんを見つめた。
「・・・・・・こんなの、提出したらマズイよ??」
「ナイスツッコミやけど・・・・・・今は、それは置いといてくれへんか?」
苦笑する白石くんを見た後、私はもう1度、評価票に書かれている文を見直した。そこには、やっぱり・・・・・・。
『大変素晴らしい発表でした。説明もわかりやすく、声の大きさや速さもちょうど良かったと思います。自分がさんのことを好きだという理由もあるとは思いますが、特にさんの発表が聞きやすかったです。もっと聞いていたいぐらいでした。』
と書かれている。
前半は至って普通の内容だけれど。明らかに後半がおかしい。
「白石くん・・・・・・?」
「あ、そろそろ、次の班の番やな。ゴメン、また後でちゃんと説明するわ。」
「う、うん。」
白石くんは何事も無かったかのように、前に向き直った。でも、私はそうもいかない。その後のみんなの発表は、ほとんど頭に入ってこなかったし、評価も適切にできていなかったと思う。
ごめんなさい、先生、みんな。
そして、評価票も集められ、授業が終わった。すると、早速白石くんがこちらに振り返った。
「さっきのは、ちゃんと消してから提出しといたし、安心してな?」
「え?あ・・・・・・うん。」
はっきり言って、そんなことはどうでもよかった。・・・・・・いや、どうでもいいわけはないけど。とにかく、それ以上に、書かれていた内容自体が気になってしまったのは、仕方がないと思う。
「それで、今度はの返事、聞かせてもらおか?」
「え、あ、あの・・・・・・!」
「いや、その前に。もう一遍、ちゃんと口で言うといた方がええな。」
少し置いてけぼりな私に、白石くんはいつも通りの爽やかな笑顔で話す。・・・・・・と思ったら、今度は真剣な顔になって、白石くんは口を開いた。
「俺はのことが好きや。付き合うてほしい。」
休み時間らしい喧騒の中、白石くんのその声だけが妙にはっきりと私の耳に届いた。それなのに、その言葉は信じられないことで・・・・・・。でも、信じたいものでもあって。それに、さっきの評価票にも書かれていたし・・・・・・。
「ウソ・・・・・・じゃないよね??」
「当然や。」
あまりにも即答されてしまって、疑う余地はなかった。それに、こんなときにウソを言う人は滅多に居ないだろう。ましてや、真面目な白石くんなら尚更。
「それじゃあ・・・・・・。え〜っと・・・・・・。こ、こちらこそ、お願いします。」
「ホンマか?!!」
「わっ!!」
「あ、あぁ・・・・・・。すまん、すまん。急に大声出したりして・・・・・・驚かせてしもたな。」
「ううんっ、大丈夫。ちょっとビックリしたけど・・・・・・。その、白石くんの気持ち、わかるもん。」
私だって、急に言われて信じられなかった。きっと白石くんだって、そう思ったんだろう。だからこそ、それほど驚いてくれた白石くんが本当にウソを吐いてないんだ、ってことがわかって嬉しかった。
「そうか・・・・・・。おーきに、な?」
「こっちこそ!ありがとう・・・・・・。」
そうやって一瞬は白石くんも動揺したものの、すぐに普段通りに戻ってしまって。そんな白石くんを見ていると、あらためて私たちが交わした言葉の意味を理解し、私の方は更に恥ずかしくなってきた。・・・・・・もしかしたら、今日の授業前以上に緊張しているかも知れない。
などと考えていると、白石くんがポンポンと私の頭を撫でた。・・・・・・余計に体が固まる。
「せやから。緊張せんでええ、言うたやろ?俺はいつものが好きなんや。」
「あ、ありがとう・・・・・・。」
「・・・・・・まぁ。俺のことが好きっちゅう理由で、そんな風になってるんやったら、許さへんわけにはいかんやろ。・・・・・・それに正直な話。そんなところも可愛くて好きやしな?」
「もう、からかわないで、ってば・・・・・・!」
楽しそうに白石くんが笑う。・・・・・・だけど、私もそんな風な白石くんも含め、大好きだから。その白石くんに好きと言ってもらえた自分に、自信を持てないわけはない。
・・・・・・次に発表する機会があったら、もう少しだけでも、普段通りに頑張ってみようかな。
モアプリ影響で、更に白石さん好きになりました、マイミーです(笑)。そんなわけで、頑張って白石夢を書いてみました!
関西弁キャラという意味では、すごく書きやすいのですが・・・。まだ白石さんのキャラを掴み切れていないなぁ、と感じながら書いておりました。
従って、白石さんファンの方がいらっしゃいましたら、何かアドバイスをしてやってください(笑)。
あと、なんか、学生っぽい話が書きたかったんですよ。私も中学生のときに、自分の住んでいる地域やら、将来なりたい職業やらを調べて発表したなぁ〜と思い出しながら、書いてみました。
加えて。私は好きな人が居ない場面ではそれなりに発表できるタイプなのに、好きな人が居る前でミスをしてしまった経験がありまして・・・(苦笑)。それから発表とかがすごく怖くなったんですよね〜・・・という甘酸っぱい(?)思い出もプラスしてみました。
今ではすっかり元に戻って、それなりに人前でも話せるようになったと思います。むしろ、好きな人の前で緊張してしまう、と考えられることが羨ましいです。
('10/04/20)